現状
現在、レーザーコントローラからプロジェクタへ信号を送るための標準規格としては以下のものがあります。
- アナログデータ送信、一対一の接続です。ILDA標準のDB25ケーブルを使用します。
- デジタル ストリーミング。既存のプロトコルであるIDN、あるいはベンダー独自のプロトコルによるイーサネットを使用したデジタル通信。
他のソリューションとしては、DSPをプロジェクタへ組み込み、プロジェクタをネットワーク経由でコントロールする方法があります。
アナログ方式の利点は簡単なことです。どのようにセッティングされているかケーブルを辿ればすぐに理解できます。
欠点は1対1の接続しかできないこと、たくさんのケーブルが必要となり、取り回しが良くありません。
それに対して、従来からあるイーサネット技術を利用したデジタル方式のストリーミングは以下のような欠点があります。
- 時間軸の概念がないため、複数システムの同期再生が困難。
- 信号の遅延時間が一定でない。従来のイーサネット技術はデータ転送の確実性に重点が置かれていますが、同時刻性については考慮されていません。
- ネットワークそのものにはネットワーク内の混雑を調整する仕組みがありません。もし、ネットワーク内の機器が多すぎて機器間の通信速度が遅くなった場合、TCP/IPプロトコルは混雑回避のため、通信量を落とすように設計されています。混雑のために目的の機器に到達しなかったデータは後ほど再送されます。この仕組みが確実なデータ転送を可能にしますが、ネットワークの混雑状況によっては大幅な遅延が発生します。
この問題の解決方法の一つがバッファリングです。バッファリングによってより良くはなりますが、完全には解決できません。バッファリングは予期しない大幅な遅延を生じさせることがあります。
AVBとは
AVBはAudio Video Bridgingの頭文字です。時間軸が重要なデータを転送するために開発されたプロトコルです。AVBは主に音楽データやビデオデータのストリーミングに利用されます。
AVBはIEEE 802.1 AVB タスクグループによって開発されました。IEEEは国際規格制定団体で幅広い技術分野における標準について作業しています。
IEEE802.1 AVBタスクグループは2007年に作業を開始し、2011年に標準規格をリリースしました。
この規格に準拠した機器は2014/2015に利用可能になりました。
AVBはCisco、Meyer soundらが参加するAVnuアライアンスによってプロモーション、支持されています。
AVB 専門用語
AVBネットワーク技術についての意見交換などを容易にするために以下のような専門用語が定義されています。
- Stream – AVBクラウド(ネットワーク)における1以上のチャンネルを含むオーディオ、ビデオなどのデータを流す「パイプ」。レーザーデータはマルチチャンネルオーディオとして扱われます。
- Talker - AVBクラウドにおけるデータをストリームへ流す装置
- Listener - AVBクラウドにおけるストリームからデータを受け取る装置
- Controller - AVBクラウドにおけるトーカとリスナの接続を設定する装置
- Entity - 装置またはソフトウェア
実例:
Talker: マイクロフォンはトーカです。オーディオインターフェイス Motu 24Ai 24 chの出力側や弊社製 ILDA 2 AVB アダプタなどもトーカです。
Listener: スピーカはリスナです。オーディオまたはビデオレコーダの入力もリスナになります。Motu 24Ao 24 chの入力側、弊社製 AVB 2 ILDA アダプタ、レーザープロジェクタのフェノンアキュレートもリスナに相当します。他のモデルもAVB対応を予定しています。
Controller: トーカとリスナを繋ぐための設定を行うソフトウェアで専門知識がなくても設定できるようになっています。通常AVBデバイスに組み込まれています。
AVBの利点は?
AVB はイーサネットを利用して「時間」を考慮する必要のあるデータを送信するプロトコルです。例えば、オーディオやビデオ、レーザーなどのストリーミングに利用できます。プロトコルは帯域予約、設定、通信量制限、時刻同期について4つの標準が IEEE 802.1 に規定されています。
- 時刻同期
AVB はリップシンクを念頭に置いて設計されました。音声と唇の動きの動機です。
全てのAVB 機器は共通のマスタクロックによって同期されます。ストリームには時刻情報が含まれていて、音声とビデオまたはレーザーなどとのデータの同期を取ることができます。それぞれのデータが通る物理的なパスが違っても、サンプリング周波数が異なる場合でさえデータ間でも同期を取ることができます。
例えば、二つのデバイスが同時にそれぞれ別のストリームデータを異なる経路または異なるホップ数で送信してもストリームデータの揺らぎは1μs以下となります。
- 複雑な設定を必要としない信頼性
業務用として使用されるA/Vネットワークには高度な信頼性が要求されます。データのドロップ、データ化けなどがあると利用できません。
AVBはITエキスパートによって信頼性に十分配慮して設計されました。彼は「確認」「帯域予約」「遅延許容範囲」など通信の確立からストリームが使われなくなるまでの詳細な設定を通信を始める前に全て済ます方法を取っています。
- 従来のプロトコル(例えばTCP/IP)がAVBと干渉を起こすことはありません。同一の物理的なネットワーク内で共存することができます。例えば、レーザーのデータをストリーミングするネットワークを利用してLAToolbox を利用してプロジェクタの状態をモニタすることができます。
約 75% の帯域はAVBのために確保され、残りの25%は従来の通信方式で使うことができます。
- 少ない待ち時間 Low-latency
従来のプロトコルは予測できない遅延が発生するのに対して、AVBは最大遅延時間を2msとなっています。100Mbitネットワークにおける最大ホップ数は 7です。最新の機器を利用すれば実質的に遅延は無視できる範囲に収まります。遅延の心配がないことから機器側のバッファサイズが小さくで済むことも特徴です。
- 公開標準
IEEE 802.1 AVB は公開標準のためロイヤリティは発生しません。誰でも利用できることも普及に役立っています。
レーザーディスプレイへの応用
- AVBは配線の量を劇的に減らし、柔軟性が広がります。例えば、配線に手を加えることなく、コントローラとプロジェクタの組み合わせを変えられます。
- AVBは新しい技術ですがオーディオ・ビデオネットワークにおいて設置規模の大小に関わらず確実に標準となります。
レーザー・音声・映像などのデータは一つのAVBネットワークを共用できます。
- 常設設備においては同じプログラムを繰り返し流しす場合が多くありますが、デジタル マルチチャンネル オーディオプレイヤさえ用意すればレーザーと音楽を同時に再生することができます。歪み補正、大きさ、オフセット、カラーなどの現場に依存するパラメータはプロジェクタ側で調整できます。
- AVBクラウドの管理は簡単です。ネットワーク上のある機器が故障した場合も機器を交換するだけで、特別な設定は不要です。
- AVBは業務用のソリューションですが、価格は高くありません。
- AVBはIEEEにより標準が定められた国際規格です。IEEE TSN (Time Sensitive Network)グループによって策定されました。つまり、A/V機器に留まらずリアルタイム性を要求されるストリーミング分野に広く利用されることを前提に設計されました。
AVBクラウドにおけるトポロジ
- AVB ストリームは一対一または、一対多の場合があります。例えば一台のDSPと一台のプロジェクタの場合と、一台のDSPに対して複数台のプロジェクタの場合です。
機器にLANポートが2つある場合は、スイッチを用いないでデージーチェーン接続できます。
通常、トロポジはスター型、リング型またはそれらを組み合わせた形になります。
AVB クラウドはホームユースから自動車などの内部機器を繋ぐネットワークまで、その規模に関係なく幅広く利用できるよう設計されています。
AVBクラウドは従来のネットワークの一部としても利用できます。AVBクラウド内でもそのまま従来のネットワーク機器を繋いで利用できます。
- 機器はその機器に固有なMACアドレスを参照します。
レーザーアニメーション社はMACアドレスのサブグループを保有していますので、弊社の製品群はネットワーク内で名前によって容易に認識されます。
AVBネットワークを構成する機器
AVBでは従来のCAT5, CAT6, ファイバのイーサネットケーブルを使用します。機器間の最大長は100mです。
AVBでは特別なスイッチを使用します。すでにMotuなどから製品を入手できます。価格は従来の高性能なスイッチとほとんど変わりません。将来的に価格は下がってくでしょう。
アナログ出力を備えたコントローラに対しては、ILDA2ABVアダプタを接続することで使用できます。
アナログ入力を備えたプロジェクタに対しては、AVB2ILDAアダプタが利用できます。この変換器には歪補正、サイズ、位置の調整機能が付属しています。
MacについてはOS側でAVBをサポートしていますが、その他のPCについてはレーザーアニメーション社製USB2AVBアダプタが利用できます。
現時点ではWindows OSがAVBをいつサポートするかは未定です。
データフォーマットについて
レーザーアニメーション社ではレーザーのデータを「マルチチャンネルAIFFオーディオデータ」として扱います。X, Y, カラー(原色数は任意)をそれぞれのチャンネルに保存します。データ再生時の大きさや位置を考慮する必要はありません。これらの調整は歪補正も含めLAToolBoxを使用しプロジェクタ側で行います。
AIFFファイルは、ILDAフレームファイルまたはアナログ出力をILDA2AVBコンバータで変換したデータを保存したものなので取り扱いが容易です。
レーザーアニメーション社は「IEEE 1722 メディアトランスポートプロトコル」をレーザーデータのストリームに使用しています。
レーザープロジェクタはサウンドカードとして参照されます。PCやマック上のアプリケーションを利用してレーザーのデータを生成することができます。現在利用可能なアプリケーションには Ableton live , Cubase, Max MSP, VVVVなどがあります。
サンプリングレートと精度
AVBオーディオストリームは48kHz, 96kHz, 192 kHz もしくはそれ以上のサンプリングレートが利用できます。これはレーザーデータにとって十分な精度が得られることを意味します。レーザーアニメーション社製192kHzのADC/DACを採用しています。
データ精度は最大32ビットとIEEE 1722メディアトランスポートプロトコルで規定されていますが、レーザーアニメーション社では24ビットデータを使用しています。
AVBクラウドで同時に利用できるプロジェクタの台数
100 Mbit ネットワークでは9組の独立したステレオデータをストリームできます。合計18チャンネルとなります。オーバヘッドの少ないデータの場合、約45チャンネルとなります。したがって、XYRGBの場合最大9台まで同時再生できます。単色レーザーの場合は15台となります。これは100Mbitのネットワークの場合です。現在1Gbitが主流になりつつあり、100Gbitネットワークも現実的になってきた今、実用上制限が無いと言えます。